是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』は、監督自身初の韓国映画となります。2022年5月に開催された、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、主演のソン・ガンホさんが最優秀男優賞を受賞したことでも話題となりました。
今回は、2022年6月24日に日本でも劇場公開される『ベイビー・ブローカー』の作品紹介と、なぜ是枝監督が韓国映画を撮ったのか?という疑問に迫っていきましょう!
カンヌで男優賞受賞!『ベイビー・ブローカー』の作品情報
概要
映画『ベイビー・ブローカー』は、子供を育てられない人が匿名で赤ちゃんを預ける“ベイビー・ボックス”(赤ちゃんポスト)をめぐり、人々の出会いを通じて、特別な関係を結んでいくヒューマンドラマです。日本が誇る巨匠・是枝裕和監督と韓国の国民的俳優、ソン・ガンホさんがタッグを組む作品は世界から注目を集めました。
第75回カンヌ国際映画祭では、主演のソン・ガンホさんが男優賞を受賞。また、人間の内面を豊かに描いた作品だと評価され、キリスト教団体が選ぶ「エキュメニカル審査賞」も受賞し、見事2冠に輝いた注目作です。上映後は感極まった場内の観客たちが約12分間にわたるスタンディングオベーションを送り、作品を讃えました。
スタッフ
- 監督・脚本・編集:是枝裕和
- 制作:ユージン・リー
- 撮影:ホン・ギョンピョ
キャスト
- ソン・ガンホ
- カン・ドンウォン
- イ・ジウン(IU)
- ペ・ドゥナ
- イ・ジュヨン
あらすじ
多額の借金を背負いながら古いクリーニング店を営んでいるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、“赤ちゃんポスト”がある施設で働く児童養護施設育ちのドンス(カンドンウォン)は、赤ちゃんを横流しするブローカーとして密かに稼いでいました。激しい雨の降る晩、預けられていた赤ちゃんを連れ去りますが、翌日母親のソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんを取り戻しに来てしまいます。警察に通報されたくない2人はソヨンに事情を話し、3人で赤ちゃんを育ててくれる新しい親を探す旅に出ることに。一方で、ブローカー稼業で荒稼ぎするサンヒョンとドンスを逮捕するため、スジン刑事(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)が確かな証拠を掴むべく静かに3人を追跡し始めますが・・・。
是枝監督が韓国映画を撮ったのはなぜ?
有名な日本人監督がどうして韓国で映画を作ったのか疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。それには2つの理由があると言われています。
理由①:韓国の俳優たちと交わした約束
是枝監督がこの作品を制作したのは、韓国の釜山国際映画祭に出席した際にソン・ガンホさんやカン・ドンウォンさんら韓国の魅力的な俳優と「一緒に映画を作りましょう」と約束を交わしたことがきっかけだと言われています。
2016年頃に「ソン・ガンホさんが赤ちゃんを抱き上げ、とても良い人に見えるが実は・・・というシーンを思い浮かべ、韓国の役者の方々と一緒に映画が作れると思った」と『ベイビー・ブローカー』の構想をひらめいたそうです。
また、コロナ自粛中に韓国ドラマにハマっていた監督は、ドラマで印象に残った女優イ・ジュヨンさん(「梨泰院クラス」)や、歌手としても活躍するイ・ジウンさん(歌手活動時の名前は“IU”)をキャスティング。さらに是枝監督の映画『空気人形』(2009年・日本)にも出演したペ・ドゥナさんも加わり、韓国の俳優たちを軸に是枝監督がイメージする映画の基盤を固め、約束を実現させました。
基本、自分の好きな俳優と自分の好きな場所で撮影するというスタンスの是枝監督。次回は英語圏の映画を制作したいという意欲を示しています。
理由②:韓国の魅力的な映画産業
『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー作品賞を受賞するなど、近年はレベルの高い作品を次々と世に送り出している韓国の映画産業。韓国が映画コンテンツにかける予算は日本の5倍とも言われていて、熱意を持つ映画人たちを全力でバックアップする体制が整っています。是枝監督も、のびのびと作品を制作できる韓国映画界の自由度の高い環境に惹かれたのではないのでしょうか。
今回『ベイビー・ブローカー』を韓国で制作したことで、是枝監督は日本の映画を取り巻く環境がとても窮屈で遅れていることを危惧し、「日本の映画界は危機感を持つべきだ」と発言しています。
まとめ
家族をテーマにした重厚な作品に定評のある是枝監督の最新作『ベイビー・ブローカー』。”赤ちゃんポスト“から見えてくる命の重みや人とのつながりを存分に考えさせられる素敵な作品となっています。韓国の俳優たちと作り上げた濃厚な是枝ワールドを、ぜひ劇場で堪能しましょう!
また、逆に将来授かった子どもを大切に育てすぎるあまりモンペ騒動の炎上なんてことにならないようにしたいものですね・・・。